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ゆうゆうタイム

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「不死身の特攻兵」を読んで2

鴻上さんは2015年に、 佐々木さんの亡くなる直前にも、
計5回の長いインタビューを行っている。
どうにか幸いに お話を直接聞くことができて この本ができたのだ。

鴻上さんは 何冊もの本や資料から科学的に検証しているが、
戦力としては 特攻隊は多くの成果をあげられなかった。
新聞やラジオでは そのような真実は報道されなかった。
実体のない勇ましい戦果が 美しい軍神の物語として繰り返し語られた。

戦艦に体当たりして沈没など、可能性としてあまりにも低い。
あっという間に 米軍のグラマン機に狙撃されてしまう。
軍上層部にも この作戦を疑問視する者もいたという。

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この本の第4章に、私が深く感動したエピソードがある。
昭和20年2月には、赤トンボと呼ばれた「九三式中間練習機」を
特攻に投入することが 木更津の海軍航空基地で発表された。

赤トンボの翼は羽布張りの複葉機で最大速度は200キロ。
迎え撃つグラマンはおよそ600キロ。
零戦による爆装特攻でさえ、成功が難しいのに・・・
この赤トンボによる特攻は無意味だ。

その会議で、末席に居た29歳の美濃部正少佐が立ち上がった。
階級としては一番下位の飛行隊長だった。 
「劣速の練習機でグラマンの防御陣を突破することは不可能です。
特攻の掛け声ばかりでは勝てるとは思えません」
参謀たちは、怒鳴りつけた。

「私は箱根の上空で零戦一機で待っています。
ここにおられる方50人が 赤トンボで来てください。
私が1人で全部たたき落として見せましょう」

「今の若い搭乗員に、死を恐れる者はだれもおりません。
ただそれだけの目的と意義が要ります。
精神力一点ばかりの空念仏では、心から勇んで発つことはできません。

「ここに居合わす方々は、幕僚であって、自ら突入する人がいません。
敵の弾幕をどれだけくぐったというのです?
失礼ながら私は、回数だけでも皆さんの誰よりも多く突入してきました。
今の戦局に、あなた方指揮官みずからが死を賭しておいでなのか?!」

誰しも無言だったという。
しかしこのあとも練習機を含む「全機特攻化」は続いた。

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特攻兵として9回出撃して 9回帰ってきた佐々木友次さんや、
この美濃部正少佐のような存在を 知ることができて 
私は深く感動し、希望を抱いた。

あの時代にも正しいことを言ったり したりした人間が
軍隊のなかにも存在したのだ!
命令を受ける側の無念や苦しみ それを思うとき
私の涙は 枯れることがない。
「日本を救うため」の その勇気と死を 深く深く悼みます。

しかし命令した側の無謀、非科学的な作戦、部下の命を軽くみて、
自分たちだけが安全圏に隠れる卑怯。
軍の上下関係を最大限に利用して、多くの若者の命と未来をつぶした。
そのことだけは、断じて許さない。
決して忘れない。

東條 英機は「精神で勝つ」というのが 口癖だったらしい。
しかしアメリカ相手の戦争に 精神では勝てない。
最高司令官とは思えない、まるで子どものようではないか。

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軍隊を象徴する日本的な「ムラ社会構造」や幼稚な「精神主義」が、
特攻隊という形式をとって 多くの若者の命を奪った事実。

そのことを9回特攻兵として出撃し、生きて帰ってきた
陸軍の操縦士、佐々木友次さんらの体験を丁寧に辿ることで 
「特攻を命令した側」でなく、「命令された側」からの真実を知ること。

そこから考え、日本人として学ばなければならないことは
実に明らかだった。

鴻上さんはこう書く。
~「命令された側」になり、特攻隊員として亡くなった人たちに対しては、
僕はただ頭を垂れるのみです。一部の「自ら志願した」人たちも同じです。
深い尊敬と哀悼を込めて、魂よ安らかにと願うだけです。

「特攻はムダ死にだったのか?」という問いを立てるそのことそのものが、
亡くなった人への冒涜だと思っています。死は厳粛なものであり、
ムダかムダでないかという「効率性」で考えるものではないからです。

全ての死は痛ましいものであり、私たちが忘れてはならないものだと思います。
特攻隊で死んでいった人達を、日本人として忘れず、深く記憶して
冥福を祈りつづけるべきだと思います。

しかし「命令した側」の問題点を追及することとは別です。
「命令した側」と「命令された側」を ごちゃ混ぜにしてしまうのは、
思考の放棄でしかないのです。

特攻隊員の死は、「犬死に」や「英霊」「軍神」とは関係のない、
厳粛な死です。
日本人が忘れてはいけない、民族が記憶すべき死なのです。~

鴻上さんは本の終わりに、こう書いている。
~佐々木さんの存在が僕と日本人とあなたの希望になるんじゃないか。
そう思って、この本を書きました。~

鴻上さん、この本をありがとう・・・
by yuko8739 | 2018-10-09 11:41 | 読書 | Trackback | Comments(0)