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芥川賞「しんせかい」を読んで

朝日新聞で 好きな文芸評論家の斉藤美奈子がこの本について
書いていた文章を読んで 興味を持った。
この作品が載っている雑誌を 先日買った。

この作者 山下澄人氏は 富良野塾の2期生だという。
自身の体験をたぶんばらばらに破壊して 再構築した作品らしい。
先日、NHKで富良野の倉本總氏の番組をみて感動したこともあり、
興味を持った。

読み始めて最初の頃は 取りとめのない文章の運びに なかなか
感情移入ができず。
主人公の19歳のスミトが どういう思いで富良野塾に入ろうと
決めたのかもあいまいで。

まあ、人生に出くわすことには それほど強い意思は必要なくて、
ふいに心が動いたことに 引っ張られてゆくのがリアルかもしれない。
役者になるって?・・・? 費用がかからないから、行くの?

ガールフレンドと別れて 船や車に乗りついで その場所に着くスミト。
その谷には1期生も「先生」もいて、膨大な作業が待っていた。
玉ねぎの苗を 植えること。
冬の間の燃料の薪を 運ぶこと。
馬の世話を すること。

農家の手伝いに行き 栄養失調で倒れる。
過酷な毎日。そこを近隣の人々は「収容所」と呼ぶらしい。
そんな日々を スミトは淡々と 感情をあらわにせずに 
短いセンテンスの文章だけで綴っていく。

読み進めるうちに 私はスミトと一体であるかのような気がしてきた。
淡々と他人の感情に深入りせず。
谷の生活は 自分で選んだのだから逃げない。

それでも寒さは 地獄のように辛い・・・
喘息まで出てくるし 寝ていれば 誰か男がやってくる。
誰だ?・・・

先生との確執も多少描かれるが、先生の態度や言葉で一喜一憂もする。
しかし それだけが大事というわけではない。
不思議な感覚。
浮遊感と自由?

芥川賞の選考委員、吉田修一は「王道の青春小説として面白かった」と
語ったが、私はそんなふうには 全く感じなかった。
青春小説にしては 色がない。
激しい感情も ない。

幽体離脱のような箇所があるのが 一番面白かった。
人は誰でも そういうことができる気がする。

人間にとっての集団生活の本質の一面とは 
こんなふうなものかもしれない。
本音の在りかは だれも知らない・・・明かさない。

たぶん、これが作者の再構築された「富良野塾」物語。
塾生のひとりひとりには それぞれの「富良野塾」物語が
存在するのだろう。


倉本聡は すごい場所を創ったものだと思う。
自己規制や忍耐、そして労働と寒さに耐えて 哲学に至る。

多分、ここを出てからの人生を切り開く力が 
他の人とは違っている気がした。
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by yuko8739 | 2017-02-22 11:11 | 読書 | Trackback | Comments(0)