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ゆうゆうタイム

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「永い言い訳」を読んで

小説「永い言い訳」を読み終えた。
西川美和監督の映画をみて、本を買った。
体調がよくなかったので 時間がかかったが読了した。
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この本の解説者:柴田元幸氏(翻訳家)は・・・
トルストイの小説「アンナ・カレーニナ」の冒頭の言葉、
~幸せな家庭はどれもみな同じようにみえるが、
不幸な家庭にはそれぞれの不幸の形がある~
という言葉をひいている。

まさに、主人公衣笠幸夫は 自意識過剰で自信過多で卑屈な小説家。
自己中心タイプで、私の最も嫌いで苦手な男だ。
妻の長い献身も愛も ほとんど感じない(ふりをしている)。
ふりをしていたら それが本当(リアル)になった。

まさに他者の痛みや感情には 鈍感でいられる人間。
無名時代の幸夫を支えた 聡明で美しい妻は、突然友と旅行中に
事故死してしまう。そのとき幸夫は自宅で 若い女と浮気をしていた。


多分今まで、彼は面倒なことやつまらないことすべてを 妻に任せていた。
食事は食べたいときに 出てくる。
汚れ物もほおっておいいたら きれいにたたんで引き出しに置いてある。
重たいゴミを出したこともなければ、回覧板を廻したこともない。

つまり彼は ほとんど「人」の暮らしをしてこなかった。
すべきことを放棄して 物書きの苦悩を大げさに演じたり。
妻への劣等感の裏返しで 尊大で冷酷な夫であり続けた。


しかし妻の死をきっかけに 幸夫の人生が大きく意外な方向に動き出す。
同じく妻を失った 妻の親友の夫、トラック運転手の陽一。
彼には 5歳の娘と小6の息子がいる。

長距離運転手の陽一は 子どもの面倒をみきれない。 
幸夫はふとしたことから この家族と係ることになる。
母を事故で失い、仕事で不在がちな父の代わりに 娘にご飯を作り、
塾帰りの息子を迎えに行く。

「チェ、面倒なもんだ、ガキなんて。
冷たい眼で俺をみるし いったいなにを考えているんだか・・・」
はじめは そんなふうだった幸夫が 日々子どもと過ごすなかで、
汚いこと、面倒なこと、作っては食べて 食べては洗って。

日々繰り返す、面倒なことを。
そのなかで子どものまぶしい笑顔にも 出会う。
母を失った子どもの泣けないかなしみにも 出会う。

「どうして 僕のお父さんは こんなお父さんなの・・・」
尊敬できない父への憎しみにも。
最愛の妻を亡くして茫然自失、子どものような純粋な陽一、
そして 息子の軽蔑に苦しむようになる陽一の悲哀にも 同行する。

つまり、幸夫は 人生で初めて面倒で厄介なことを 引き受けたのだ。
「神は 細部に宿る」
幸夫は 人と係るなかで「細部」を 実践していく。


それがあれば 人は生きることができる。
亡くなった妻は、その幸夫の足跡、それに続く道を導いた。

今まで 妻の死にも泣けなかった幸夫は この道を歩くことで
永遠に妻への「喪」の仕事を深め、実現することになる。

人と丸ごとかかわることで 人の再生を描いた、
なかなか味わい深い小説だった。
西川美和の人間洞察が よかった。

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定期受診した脳外科の売店で 芥川賞の「しんせかい」が
掲載された雑誌を見つけて 買った。
朝日新聞の書評に惹かれていたので、読むのが愉しみ。

前日、みたかった映画「手紙は憶えている」をみてきた。
感想は またの日に。
by yuko8739 | 2017-02-17 09:51 | 読書 | Trackback | Comments(0)
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