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小説「怒り」について

秋の雨が冷たくなった。
季節が 変わっていく・・・


吉田修一の原作、「怒り」を2日で読み終えてから ずっと考えていた。
私は映画をみた後に 深い感動に包まれながら ひとつの疑問を抱いた。
本を読めば 少しはその答えが見つかるかと本を読んだが、結局わからなかった。

私が疑問に感じたのは、なぜ、犯人は人を殺したのか?
この映画、この原作でも殺人者の心理は ほとんど説明されていない。

同僚が その殺人シーンを語る場面はあるが。
それは 殺人者自身の言葉ではない。

「怒り」のなかには さまざまな怒りが存在する。
愛する者を信じきれなかった 自分への怒りが胸を打つ。
しかし人を殺すほどの 殺人犯の激しい「怒り」については空白なのだ。

作者がそれを あえて説明しない書き方をしたのなら、読者の
自由な解釈に任せるということだろうか。
でも、犯人の情報が断片的で 彼の人生に起きたわずかなことは伝わるが、
彼がなにを感じていたかは ほとんどわからない。

才気あふれる監督のもとで これだけの役者がこれだけの渾身の演技で
この原作に応えた。涙なくしては語れない、圧倒的な3つの物語。

しかし、犯人はなぜ 殺したのだ?
この究極の問いに 原作にさえ なんの答えもなかった。
人は、どんなことにでも「理由」を欲しがる生きもの。
理由などないということほど 不安をかきたてることはない。

こういう人間の性を 心理療法家の河合隼雄さんは常々指摘した。
「理由を知ろうとし過ぎると 理由を探すことになる。
自分以外の理由を見つけて 誰かを責めることになる。
理由など なくてもいい。理由は要らない、探すな」
でも それは不登校などの心理の問題。

優しくしてくれた人を「頭にきたから殺した」?
犯人の心の闇を、ある程度は原作者に書いてほしかった。
優しさにキレる犯人とは どんなふうに育った?
だれに なにをされた?

付け加えるなら 原作では犯人を追う若い刑事の恋の行方も中途半端。
恋人は去って行ったが なぜ?という読者の問いに 答えはない。

元々人生に起きることは 腑に落ちないことばかりだが。
読書の快楽においては 起きたことの理由に納得のゆくほうが 
気持ちがいいし、共感も深くなり感動も増すような気がする。
「その女、アレックス」のように。

ということで「怒り」という本は なぜ人を殺したのか?
そんな究極の疑問が 消えない本だった。
by yuko8739 | 2016-10-06 09:46 | 読書 | Trackback | Comments(0)
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