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ゆうゆうタイム

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高橋源一郎「誰のために、祈るのか」

朝日新聞の大好きなコラム、「論壇時評」
大好きな高橋源一郎が書いた。
パリ同時多発テロ「誰のために、祈るのか」

凄惨なテロのあとで、「Don‘t pray、think」
(祈る前に考えて)という言葉を ツイッターに刻みつけていた人が
多くいたことに 彼は言及する。
(以下引用)

そして中東研究者、酒井啓子さんのコラムを紹介。
「パリとシリアとイラクとベイルートの死者を悼む」
~ベイルートもパリも、『イスラーム国』との戦いの延長で、
テロによる報復にあった。
だが、その二つは受け取られ方の点で、大きく違う。

ひとつは、ベイルートでの事件が、欧米メディアのなかで
かき消されていること……
ふたつ目は、フランスが『イスラーム国』との戦いに深く
関与していることが覆い隠されていることだ~

~(先進諸国が)『テロとの戦い』と主張してやっていることは、
ただ攻撃と破壊だけである。攻撃のあとにどういう未来を、
平和を約束するのかへの言及は、ない。

反対に、同じ被害者である難民を拒否し、『テロ』予備軍とみなす。
『テロとの戦いで国際社会は一致する』というならば、
その被害者すべてに対して、共鳴と連帯の手を 
差し伸べるべきではないのか~

祈るな、といっているのではない。祈るべきだ。その思いは共有している。
けれども、誰のために、なのか。
そして、祈ることが、何かを忘れることに繋(つな)がりはしないのか。
そのことをおそれる気持ちが酒井の文章には、あった。

フランスのオランド大統領は、「非常事態」を宣言した後、
歴史的演説を行った。
いま、フランスでは、憲法改正や「人権制限」が公然と
論じられようとしている。

が、その一方、1年ほど前にフランスが「イスラム国」への空爆を開始した時、
そのことが孕(はら)む危険性ゆえに反対した政治家たちのことばが、
もう一度読まれだしている。

「我々は過去の経験から知っている……軍事介入はテロを根絶するのでなく、
テロの土壌をつくってしまう」と元首相のドビルパンは語り。

「以前よりもはるかにひどいカオス・混沌(こんとん)が軍事介入に
よってもたらされる」と元大統領選候補のメランションはいった。
だが、彼らの警告は無視された。

いま世界は「ひどいカオス・混沌」の中に落ち込んでゆこうとしているように見える。
もしかしたら、それこそが、テロリストたちが
望んでいた結果なのかもしれない。
わたしたちが、憎しみと恐怖で混乱することが。

テロで妻を亡くした男性が FB(フェイスブック)に書いた文章が
世界に流れた。わたしは、その文章をNHKのニュースで
アナウンサーが朗読するのを聞いた。

どんなニュースより聞かれる必要がある、とわたしたちは感じていたのだ。
彼はこう書いている。
「君たちに憎しみという贈り物はあげない。
君たちの望み通りに怒りで応じることは、君たちと同じ無知に屈することになる」

ほぼ同じ頃、ひとりのインド人のモデルの女性が詩を、
やはりFBに投稿して、大きな反響を呼んだ。

メディアや世論の「大きな声」ではなく、
親密な、個人の声がいま緊急に求められている。
そこに、世界を混沌から救う論理があるかもしれないから。

「パリのために祈りたいなら祈りなさい
 でも 祈りを捧げられることのない
 もはや守るべき家すら持たない
 世界の人びとにも
 多くの祈りを
 馴染みの高層ビルやカフェだけでなく
 あらゆる面で 日常の何かが
 崩れ去ろうとしている
 この世界に祈りを」
 Pray, and think.

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この世界の見えにくい場所に 高橋源一郎は光を当てて、
その影を読むことができる。
きらめく繊細な言葉で その影の話を伝えてくれる。

世界を見渡すとき、社会を考えるとき、彼の感受性が紡ぐ言葉に 
私はいつも心を打たれる。
そして どこかで自分の想いとつながる彼を 
まぶしく見上げてしまう。

以前にNHK「100分で名著」シリーズで、彼は「太宰治」の
「斜陽」を解説していたが、それはそれは すばらしかった!
思わずテキストを買い、一気に読み終えたが 感動で涙がにじんだ。

高橋源一郎の 太宰を深く愛するそのこころが 美しくやさしかった。
太宰の本には 未来のことも すべてが書いてあると彼は言った。
それは 本当だ。

太宰は時代を先取りしているというより、いつも新しいのだ。
決して 古くならない。
だから いつでも太宰の言葉には 耳を澄ます。

ときどき 高橋源一郎の言葉には 太宰の香りが漂う。
本質をみる人・・・
かすかな声を聴く人・・・

そしてそのことを 彼独自の繊細で美しい言葉で 伝えてくれる。
by yuko8739 | 2015-11-27 21:04 | | Trackback | Comments(0)