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ゆうゆうタイム

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映画「ハンナ・アーレント」

2013年度ドイツ映画賞2部門受賞。
ドイツをはじめ、フランス、アメリカで大ヒット。
岩波ホール創立45周年記念上映でロングラン。

どうしてもこの映画が見たくて 先週上映会に出かけた。
ある程度の知識がなければ よく理解できない映画かもしれない。
そんなコメントを読んで、ハンナのことを前日に少し調べた。

60年代初頭、ナチス戦犯アイヒマンの裁判レポートを書いた
哲学者ハンナ・アーレントの実話を元にした映画だ。

彼女は第二次世界大戦中に、ナチスの強制収容所から脱出し、
アメリカへ亡命したドイツ系ユダヤ人。

そして、その後1960年代初頭に、ナチス戦犯アドルフ・アイヒマンが
逃亡先で逮捕された。
イスラエルで行われたアイヒマンの歴史的裁判に、自ら希望して立ち会った彼女は
アメリカのザ・ニューヨーカー誌に 裁判レポートを発表する。

 
ハンナが裁判を通してたどりついた結論は、
「アイヒマンは怪物でも悪魔でもない。命令に従っただけの凡庸な人物だ。
彼の間違いは、考えることをやめて命令に従ったこと。
凡人が思考停止すると、悪魔のような殺戮を行ってしまう」

アイヒマン擁護とも取られかねない彼女の思想に、世界中のユダヤ人や
シオニストたちは激怒する。長年の友人は去り、勤務する大学にも
辞職を迫られるが、彼女は決してその思想を変えない。

今もなお論争を呼ぶハンナ・アーレントの思想の本質に迫る
いわば人間の本質を問う映画だった。

自らが強制収容所にいた経験を持つのだから アイヒマンへの憎悪が
あって当然だと感じるが、彼女の哲学者としての理性は曇らない。
苦悩のなか 大学で行った8分間のスピーチのシーンには
鳥肌が立つくらいに 感動した。

彼女の訴えたことは 今の世界、今の日本にも通じることばかり。
思考停止に陥って 原発に事故は起きないと信じたのは いったい誰だ?
美しい物語を聞かされると、憲法を曲げてでも戦うことは当然と、
思う人間は 誰だ?

自分の頭で 考えなくてはならないのだ。
彼女のスピーチで 強く印象に残った言葉があった。
「起きたことの理解と それを許すことは、全く違う」

理解はできても、それを許すか 許さないかは別の問題だ。
彼女は アイヒマンを許さないと言った。
しかし「平凡な人間の思考停止」は、理解できると。

それを混ぜてしまっては 真理は見えない。
自らの思想に対して、鉄の意思を持つ彼女を支えたのは、
夫や友人の深い愛と理解だったと思う。

歴史の事実の多様な展開と、知的興奮を刺激する
見応えのある感動作だった。

(以下 ハンナのスピーチより引用)

「アイヒマンは、人間の大切な質を放棄しました。
思考する能力です。その結果、モラルまで判断不能となった。
思考ができなくなると、平凡な人間が残虐行為に走るのです。

〝思考の嵐〟がもたらすのは、善悪を区別する能力であり、
美醜を見分ける力です。
私が望むのは、考えることで人間が強くなることです。
危機的状況にあっても、考え抜くことで破滅に至らぬように」

映画「ハンナ・アーレント」_c0204725_2293870.jpg
by yuko8739 | 2014-06-17 21:00 | 映画 | Trackback | Comments(0)