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ゆうゆうタイム

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無垢と純真~リトル・アリョーヒンの世界~

小川洋子の奇妙な題名の小説「猫を抱いて像と泳ぐ」を読了。
読みながら強く感じていたのは 読み終えるのが もったいないいうこと。
いつまでも この美しく奇妙な小説の海に 漂っていたかった・・・
 


この題名には 少なからず違和感を感じながら読み始めたが
すぐに 心は わしづかみにされた。

虚と実の絡まり合う 独特の不思議な世界。
意識と無意識が 分かちがたく渾然と 混ざり合う世界。
そこで奏でられるのは たぐいまれな美しさの物語。


現実とは いったいなんだろうか・・・
私たち凡人は 常識という定規を持ち、狭くて窮屈な価値観で人を観る、
それも「自分」という 濃い色の眼鏡をかけて。

しかし この小説で描かれるのは 想像をはるかに超えた家族の姿、
社会の底辺で 理不尽な運命を呪うことなく受け入れ、
貧しい日常を 静かに受け入れて 生きている人々。

無垢で純真な魂を持つ人々の美しさ・・・
そんな本質を最も体現しているのが 主人公 リトル・アリョーヒンその人。

デパートの屋上で飼われ 体が大きくなりすぎて地上に降ろされることなく 
一生を屋上で生きた かわいそうな象に 不幸な生い立ちの
物静かな少年は 強く惹かれる。

そして ある偶然から 放置されたバスのなかで暮らすたっぷりと太った、
温かくて柔らかい男性と 出会う。
彼こそが少年を「チェス」という別世界へ導く 偉大なマスターその人だった。

マスターは言う。
「哲学も情緒も教養も品性も自我も欲望も記憶も未来も、とにかくすべてだ。
隠し立てはできない。チェスは、人間とはなにかを暗示する鏡なんだ」

チェスというものを 私は見たことはあるが、よくは知らない。
その奥深い詩のような 神業のような対戦を 私は知らない。

それでも この物語はそんな盲のような私をさえ「盤上の詩人」と
呼ばれた ロシヤの世界的天才チェスプレーヤー アリョーヒンの世界へと
誘ってくれる・・・

そしてこの物語に登場する奇妙な人物たちは なんと魅惑的だろう!
母を亡くした少年を 愛情深く育てる祖父と祖母は 風変りだが
本質をみる人、
無口な少年の友は、夢想のなかでミイラと名付けた少女と象のインディラ。
(ミイラはのちに 現実の人物となって 少年の前に顕れる)

甘いものが好きで おやつを作り 指をべたべたさせるマスター
ホテルの「海底チェス倶楽部」で 出会った“老婆令嬢”
こころを分かつ 老人施設「エチュード」の看護総婦長。



今まで、たくさんの読書を重ねてきたが、読み終わるのが惜しいと
感じる書物は そう多くはない。

しかし物語の中盤を過ぎてから 否応もなく リトル・アリョーヒンと
離れがたい気持ちが こみ上げてきた。
どんなことも 彼と同行したい・・・

大人になっても 50cm四方の直方体に収まる小さな体、
生まれたとき唇が閉じていたため、切開手術を施され
脛の皮膚を移植したことが原因で 唇に毛が生えている彼・・・

そしてチェスという 壮大な宇宙を自由自在に漂い、無垢で純真な魂のまま
美しい詩や交響曲を奏でるような 天与の才能を持つ「異形の人」

「異形の人の純真」と書こうとして ふと感じた。
これは まるで 映画「エレファントマン」の感動に 重なるではないか・・・
彼の異形と 美しく永遠の魂に 私は雷のように打たれて 泣いた。



小川洋子さん、あなたの物語には「神の手」を感じます。
この不思議な 美しい物語と出会えたことを 深く 感謝します・・・

さて、しばらくはリトル・アリョーヒンの余韻に浸り、
次のドアは やはり あなたの物語「薬指の標本」・・・
by yuko8739 | 2013-04-27 10:49 | 読書 | Trackback | Comments(0)
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